この短編小説は今回主催した方の視点から出来ております。
そして、このコラボツーを最後にバイクを降りることに・・・




    『 Last Run 』


関越自動車道 上里SA 午前8:30

雲に支配されている空を見上げてライトモの無事を祈る。

時間が経つにつれて、太陽が顔を出し始めるとライダーが次々にジャケットを脱ぎ始めた。

バイクエリアを外れて、ガンメタのハヤブサが鎮座する。

シールド越しに周りを見渡すと、バイクエリアにマシンを停め静かにサイドスタンドを降ろした。

CB1300に跨り、長身のライダーがやって来た。 気さくなスポーツマンだ。

駐車場を探す車の間隙を縫って、黒塗りのハヤブサが現れた。

ヘルメットを取り、軽く手を上げる。

後方からは、R1000が続いて入ってきた。

ベンチで煙草を吹かすライダーを見つけ、ニヤリと笑った。

ハーレーの集団にまぎれて、ZZR1100を先頭に2台のホーネットとZZR1400がバイクエリアを埋めた。

黒いホーネットの到着を待って、集団は上里サービスエリアを後にした。

隊列を組んで走るマシンが、新潟へ向かって疾走する。

バックミラーに写ったその光景に、初めて参加したマスツーを思い出す。

緊張と不安にただマシンにしがみついていた自分がいた。

あのときの感動を、新潟で待つまだ見ぬ友に伝えるためにハンドルを握り続けた。



月夜野ICを降りると群馬と新潟を結ぶ三国峠の入り口で、新潟の走り屋たちと待ち合わせをした。

駐車場にマシンを停めると、背中に突き刺さるような視線を感じる。

黒とグレーのツートンのハヤブサが周りを威嚇しながら鎮座していた。

薄暗い木陰からゆっくりと近づいてくる集団に気づき、後ろを振り返る。

リーダー格のハヤブサ乗りが、笑みを湛えながら私たちを迎い入れた。

暫しの談笑をさえぎるかのように、黄色のXJ1300が黒Ninjaと赤Ninjaを引き連れて

峠のアプローチを爆音とともに駆け上がっていく。

十数台のマシンが一斉に走り去ると、静寂を取り戻したオルゴール館の洒

落た建物からオルゴールの音色が響き渡った。

三国峠を駆け下り、十二峠にさしかかる。

さっきまで後方でおとなしくしていた新潟の走り屋たちが、一気に襲い掛かってきた。

減速してコーナーを抜けるマシンにアウトから勝負を挑む走り屋たち。

右車線にはみ出し、深いバンク角を保ちながらXJ1300が前に割り込むと

ブラックバードの黒い車体がタイヤを滑らしながら続いていく。

荒れた路面をもろともせずにコーナーに突っ込んでいく赤Ninja。

ミシュランのハイグリップタイヤが路面に食いつく。

レスポンスを遺憾なく発揮するその走りは、どこかZZR1200乗りを彷彿させた。



峠を下り山間の一般道を抜けると、目の前に日本海が広がった。

峠でストレスを発散したバイク野郎たちが、青い海に癒されていく。

長い髪を靡かせ、女性ライダーが到着する。

潮風に髪を掻きあげると汗がキラリと空中に舞った。

ほとばしる汗が彼女たちの体から流れ落ち、路面を濡らす。

男たちのギラギラした目からは、夏の日差しを体いっぱいに浴びた爽快感が漂う。

「行くよ」

リーダーのハヤブサ乗りが声をかけるとマシンに跨り、エンジンをかける。

ジャケットのファスナーを上げると、マシンを高速の入り口に向ける。

白い車体に身を任せ前方に目を向ける。

アプローチから一気に走行車線にマシンを導くと、体を伏せアクセルを全開にする。

次第に狭まる視界。

風圧はマシンと体を後方に引きずり込もうとする。

フロントタイヤに接地感を感じない。

不安になりながらも必死にタンクにしがみつく。

タコメーターの針が10000rpmを越える。

体感したことのない世界に踏み込む恐怖と戦いながらじっとそのときを待つ。

スピードメーターの針が最後の目盛りで一瞬止まった。

それ以上進まないことを確認すると、アクセルを緩めた。

すると左から黒いかたまりが一瞬にして黒い点となって前方に消えた。

ZZR1400。

カワサキのフラッグシップが、最高速キングを誇示するかのようにぶち抜いていった。

後方から甲高い爆音を上げながら、ZZR1100と黒のハヤブサが伏せながらかっ飛んで行く。

次々に牙を剥き襲い掛かってくるリッターマシン。

その轟音がアスファルトを蹴り、空に広がっていった。

テールランプが赤く光り、モンスターマシンが徐々に近づいてきた。

最高速バトルの終焉を迎え、次第にマシンが隊列を組む。




越後川口ICを降りると、宿泊地にマシンを進めた。

田舎の町はお祭り騒ぎ。

山のコテージに地鳴りかと思うほどの花火の音が響き渡る。

走り屋たちが友との出会いに缶ビールで乾杯をした。

一斉に湧き上がる笑い声。

バイクにかける思いを確かめ合うようにアルコールに酔いしれる。

彼らの笑顔に変わらない友情を確信した。

自分が求めていたもの。

それはバイクを通じて知り合った仲間たちと同じ時間を共有し、相手を労わり、

喜びも悲しみも共に分かち合えるこの「絆」を手にするためだったのだろうか。

満天の空に降り注ぐ星を眺めながらふと涙がにじむ。

遠くで鳴り響く花火の音が、喜びに沸くバイク野郎たちの心をさらに躍らせた。

疲れとアルコールのせいで熟睡したのであろう、ふと目覚め部屋の中を見た。

夕べ遅くまで続いた宴に満足したのか、誰一人として起きる気配がない。

ふと気付くと体に毛布が掛かっていることに気づいた。

気のやさしいホーネット乗りが掛けてくれたらしい。

みんなを起こさぬように外へ出た。

早朝の森の空気を身体いっぱいに吸い込んで、ゆっくりと辺りを散歩する。

昔トレーニングに使った坂道が、今もなおその急なこう配を残していた。

出発の時間を迎えてホテル前に行くと、シャンパンブルーのZZR1200が

太陽の光に照らされ停まっていた。

「おはようございます」

軽く挨拶をすると、度肝を抜かれたバイク野郎たちに満面の笑顔で応える。

チームリーダーの駆るハヤブサを先頭にマシンが次々とホテルの駐車場から出て行った。

信号機の少ない田舎道を速いペースで山間のダムを目指す。

きれいに舗装されたコーナーを爆音とともに駆け上っていく。

スノーセットの隙間から流れだす水が、ライダーを臆病者に変える。

次第に上がるペースにマシンとの間隔が離れていく。

先頭を行く数台のマシンが視界から消えると、絶壁の岩肌がわれわれの

走りを静かに見守っていた。




福島の県境を抜け、「道の駅 たじま」で軽い休憩をしているとBIG1乗りと

共にガンメタの10RとZZR250が合流した。

新潟の走り屋たちに別れを告げると、バイクに跨った。

再び走り出した集団は、栃木路を気持ちよさそうに流していく。

青空は一転して鉛色の雲に支配されていく。

峠を駆け上り、霧に覆われた霧降高原にマシンを停めた。

湿気を帯びた霧がマシンを濡らす。

ジャケットから煙草を取り出すと、まっ白な空に向かって煙を吐いた。

談笑する仲間たち。

マスツーの達成感が安堵に変わり、体の力が抜けていく。

霧の中に薄っすら浮かび上がる白い愛機を眺めながらため息をつく。

共に旅を続けたマシンに感謝する。

「ありがとう」

仲間の輪に入ろうとするが、勇気が出ない。

マシンに腰を下ろすとZZR1100乗りが肩に手をかける。

「だめだよ・・・」言葉にならない

たまらずヘルメットを被り、うなずく。

後ろからZZR1200乗りが、ポンっと肩を叩いてつぶやいた。

「もう少しですよ・・・・」

シールドを閉めると涙で前が見えなくなった。

「さあ、いくぞ」

ZZR1100乗りの合図で一斉に爆音が鳴り響く。

駐車場から出て行くマシンの後姿に頭を下げる。

仲間のマシンのテールランプが涙でかすむ。

霧の中に消えていくマシンが無言の合図を送った。

「俺たちは仲間だ、信じろ」と・・・・・・

今もこの手に残る仲間たちの手のぬくもりを一生忘れない。


やさしく、力強い友情の絆を・・・・・・・・・・・・・・・・・・・完






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